以下の報告が国際開発学会で行われます。報告要旨全文はPDFをご覧下さい。
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国際開発学会 第27回学術大会
https://www.jasid.org/conference
於:広島大学、2016年11月26日10時〜12時
開発・援助と「人びとの主権」を考える
Development-Assistance and “People’s Sovereignty”
高橋清貴(恵泉女学園大学)
舩田クラーセンさやか(明治学院大学国際平和研究所)
渡辺直子(日本国際ボランティアセンター)&クレメンテ・ンタウアジ(ADECRU)
コスタ・エステバン&ジュスティナ・ウィリアモ(UNACナンプーラ州農民連合)
大林稔(元龍谷大学)
清水奈名子(宇都宮大学)
1. はじめに
2008年に、アグリビジネスによる「ランドグラブ(土地強奪)」現象が国際社会の注目を集めてから8年が経過した。穀物価格の高騰と今後の上昇への期待は、自然豊かだが、交通の便が悪く農業に適していない「低開発の地」とされていた世界中の「周辺地域」をターゲットとして、急速かつ大規模に展開していった。これら多くの「辺境の地」に暮らす小農や先住民族は、国家との関係で弱い立場に置かれてきた一方で自然に頼りながら社会関係・農耕技術・食生活・文化・宗教などを育んできたが、現在森林・土地・水源の喪失に直面している。このような深刻な現場から、これに対抗するための国境を超えた運動が生まれ、当事者同士あるいは他との連帯を経て、現在新たな国際規範や規制を創り出すまでに至っている。
これまで「周辺化地域の住民」については「犠牲者」としての側面、あるいは「生活戦略上の主体性」が注目されてきたが、ここで注目したいのは、これらの住民が圧倒的な構造と搾取に対して「主権者」として自らを位置づけ直し闘っている点である。
農民が自らの「主権」を意識するようになった背景には、今の「食料安全保障」ブームを背景とした農業開発投資や援助の影響が大きい。先進国や国際機関や投資家、各国政府が「農民のため」との名目で進めてきた大規模農業開発が、新たな脅威として暮らしの場に立ち現れたことを受けて、農民らは「周縁化」や「押しつけ」自体をアイデンティティの原点にして立ち上がり、抵抗し連帯する中で「主権者」意識を高め、各国政府や援助国・機関、投資に対し、「権利」を要求する運動を展開し始めているのである。
この「主権」に関する議論で特徴的なのは、先住民族や小農が、一国家内部で歴史的に構築された政治経済社会的な搾取・抑圧構造に囚われながらも、それを可能とするグローバルな経済・政治構造や開発言説をも焦点として、グローバルに抵抗運動が展開されている点にある。
2. 二つの事例(ブラジル・セラードPRODECERとモザンビーク北部ナカラ回廊開発/ProSAVANA)
本セッションで紹介するのは、日本が1970年代に開始したブラジル・セラード地域の大規模農業開発(日伯セラード農業開発協力:PRODECER)と現在モザンビーク北部(ナカラ回廊地域)で行っているプロサバンナ事業(日本・ブラジル・モザンビークによるアフリカ熱帯サバンナ農業開発プログラム)に対する住民の抵抗とその背景である。いずれの事例でも、「広大な未開墾地」「低生産性」を理由に、投資・大豆輸出と結びついた大規模な農業開発事業が権威主義的国家経由で導入され、大規模な土地収奪への危機が地元住民を主権者として立ち上がらせた点に大きな特徴がある。国家との関係では「辺境」に位置づけられ、自然豊かな地域で自律的な営みを継続させてきた住民のこの変化に注目する。報告の冒頭に、これらの事例を世界潮流の中に位置づけて論じるが、本要旨では、二つの事例を少しだけ紹介する。
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http://farmlandgrab.org/uploads/attachment/【国際開発学会2016】開発・援助と「人びとの主権」を考える_全体要旨論文….pdf